2006年05月07日

『 JR10年の検証 − 国鉄民営化は成功したのか 』

長文です...。

JRが発足してから10年後の1997年に書かれた本。
そのため、最新の情勢はもちろん入っていないし、
当時(約9年前)の情勢で書かれた、ということを前提として
読む必要があるでしょう。


JR10年の検証 国鉄民営化は成功したのか
著者名:大谷健
出版社:朝日新聞社出版局
出版年:1997.03
ISBN :4022570628


著者は元新聞社のフリージャーナリスト。
おそらくそのためでしょう。
綿密な分析をしてかかれている記事が多いです。

海外の国営鉄道と比較している点もあり。
ただ、JRの民営化が海外(特にヨーロッパ)の国営鉄道改革の模範と
なっている点を強調しすぎてはいないか?
海外の紹介事例を見る限りでは、「逆にJRがこの部分は取り入れた方がいい」
と思える点も見受けられるが、その点については一切言及なし。

ただ、内容が偏っているのではないかという印象を受ける。

労働組合との問題、政府との関わりあい、株主に対してなどに
重点がおかれすぎているようにも思える。
確かに労働組合との問題は国鉄末期からの大きな問題ではありましたが...


本書は利用者から見た視点に乏しいと思える。
「サービスが良くなった」「便利になった」というような
「良くなった」面しか殆ど取り上げられていない。
逆に、
「分割されたために、長距離の移動が不便」
「赤字ローカル線ではかえって不便になった個所も」
「安全性は本当に大丈夫なのか?」
といった問題については殆ど触れられていない。


安全性は、あくまでも統計上は国鉄時代に比べて上がっているのかも知れない。
しかし、(この本の執筆後の話ですが)
福知山線事故は、原因はスピードの出しすぎとはいえ、
その背景には、国鉄時代からの悪しき習慣と、JRの利益追求第一の経営による
安全性の欠如(停車時間すら余裕のない過酷なダイヤ:過密ではない)が
あると思われます。
福知山線事故については、他のところで書いているので
ここではこれ以上は触れないですが、
国鉄時代からの負の遺産(悪しき習慣)はともかく、
利益追求による安全性の欠如は実際には起こってますね。


赤字ローカル線については、殆ど触れられていません。
少し第3セクターに切り離された路線について書かれているのみ。
大都市とその近郊での利用に重点を置きすぎではないか?
第3セクターにならず、
JRが保有したままの赤字ローカル線も多いです、実際は。


「分割されたために、長距離の移動が不便」について。
この点の記述は全くの認識不足ではないか。
本文では、
「ちなみに旅客会社を六社に分けた根拠としては、
各社とも旅客全体の95〜99%が地域内で乗り降りを
完結していることを挙げている。」
という文章だけを採りあげてあっさりと片付けられている。

「旅客全体の95〜99%が地域内で」って、それは当たり前、
旅客全体、ということは短距離の通勤、通学客も入っているからです。
単に人数比であれば、通勤、通学客が占める割合ははるかに大きい。
だから「旅客全体の95〜99%」というのは実質意味を持たない。

少なくとも「長距離利用者の**%が地域内で」
という分析をすべきではないか?
長距離利用者に限定すれば、地域外の乗り降りはもっと多いはずです。

長距離利用者からみて(自分も長距離利用をするので)、
JRの地域分割は明らかに「国鉄時代よりも悪い」です。
いろいろと理由があるでしょうが、
長距離を直通する列車が殆どなくなった。
分割の境界では乗り継ぎ連絡が考慮されていない場合も多い。

航空会社は国内ではほぼ2社(とその傘下の子会社)ですが、
路線は西半分などの地域で分けられているわけではない。
これは何を意味するのか?

長距離利用者は地域限定で移動するわけではない、ということです。

このあたりが何も触れられていなのは、
執筆当時(1997年)はそれほど長距離列車が減らされていなかったからなのか。
しかし、ジャーナリストという肩書きを持つにしては
この点は認識不足ではないかと思われます。

旅客全体の95〜99%ということを何も問題視していないのも問題。
ちょっと解釈を変えれば、
大都市の利用が殆どなのだから、地方のローカル線は切り捨てても構わない、
という解釈にも繋がりかねないようにも思える。


国鉄から民営化されたときの分割の仕方はやはりおかしいです。
分割はやむを得なかったにしても、
どう分割するかはもっと考慮すべきだった。
50年ぐらい前の電力会社の分割、最近のNTTの分割とはわけが違う。
地域を越えて「人が移動する」事をもっと考慮すべき。

民営化は、少なくとも国鉄時代よりは良くなったというべきかもしれない。
しかし、分割の仕方、過去の国鉄赤字の処理の仕方には問題ありで、
最善の方法だったとはいい難いです。
「人が移動する」以上は、地域で分割するのはおかしい。
上下分離(列車の運行と、駅、線路などの設備を分ける)というもの
選択肢のひとつだったのではないか?


赤字ローカル線についても、利用者0ならともかく、
交通弱者の立場にたって考えて欲しい。
すくなくとも交通弱者からみた交通手段を公が保証すべき。
それが第3セクターであっても仕方ないのかもしれないが、
本来なら第3セクターでも問題あり。
もと1つだった国鉄時代の線路網が更に細かく分割されている、
ということだから。
実際、JRとの乗り入れを行っている第3セクターはごく一部。
当然運賃は別計算です。
本当にこれでいいのでしょうか?
posted by Silent Bells at 11:49| Comment(0) | TrackBack(0) | 鉄道に関して
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